公開日:
最終更新日:

ALTEC と言えばこの 604-8G を思い出す方も多いのではないでしょうか。

正面には特徴的なマルチセルラホーンがつき、口径は15インチ、つまり38cmもあり、同軸型(デュプレックス)の存在感あるスピーカーユニットです。
オリジナルは1945年に開発されたそうです(76年前です!すごい!)。

ALTEC 604-8G

604-8G は布エッジなので基本的に自然に劣化するエッジではありません。

ですが、発売から年月が経過しているために

・磁気のサビが非常に進行している
・オリジナルの高域ダイヤフラムが断線しやすい
・ターミナルの台座となる樹脂部品が劣化して崩れていく

といった特徴があります。

修理ご相談の内容としては、ビリ付きがでる、音に切れがなくなった、高域の音が出ていない、という症状がほとんどです。

今回は宮城県のSさまのご承諾を得て ALTEC 604-8G の実際のオーバーホールの工程をご紹介いたします。なお、ALTEC 604-8H も同様の修理となります。

さっそく状態の確認をしたところ、2本のユニットのうち1本で高域の音が出ていない(断線)、そして低域のビリ付きが確認できました。どちらも経年によるトラブルですので、2本そろえて同内容の修理をさせていただきました。

高域側のカバーを開けるとこのようになっています。

2本のリード線が断線しています

左右のネジの下から出ているそれぞれの線が切れているのが見えますか?
この高域ダイヤフラムの断線は非常によくある症状です。リード線が鋭角に整形されているからだと思われますが、経年でぽきっと折れてしまうようです。

やはり磁気も酸化しています。同軸ユニットなので、高域側と低域側両方のオーバーホールが必要です。

高域側の磁気
低域側の磁気
低域側ギャップ内に赤さびが!

低域側のギャップの近くにはマルチセルラホーンを固定するビスの穴があり、この中からもサビが出てきています。

ターミナルの取り付け場所にある樹脂の台座も経年でひびが入っています。

ターミナル台座劣化、ひび割れ

この台座の補強も必要です。このターミナル台座は高域側と低域側それぞれにあるので、ペアのユニットの場合、合計4か所の点検をし、必要に応じて補強します。

では、各部修理していきます。
まずは高域側ダイヤフラムの断線修理から。

リード線を交換しました

切れていたリード線を新しい線と交換しました。負荷がかからないようカーブをつけて整形し、半田付けします。この際、振動板に傷をつけないように慎重に作業します。またターミナルからの配線がつながる4点のビスは、導通改善のために交換しました。

当社のこだわりである磁気のオーバーホールを行います。ギャップ内の酸化物や異物はビリ付きの原因となりますし、最悪のケースではボイスコイルを傷つけてしまいます。ボイスコイルやコーン紙といったオリジナル部品の入手が困難な現在、これらのパーツを温存できるかどうかは「オリジナルの音」や「オリジナルの価値」を残せるかどうかの大きなポイントとなりますので、丁寧にオーバーホールしていきます。

高域側磁気のオーバーホール後
低域側磁気のオーバーホール後

重く扱いづらい形状の磁気ですが、入念に酸化物や異物を除去し、防錆処理をしました。深いサビもあり、またボイスコイルが収まるギャップはかなり狭いので、とても手間がかかりますが、これにより貴重なオリジナルのボイスコイルを傷つけるものはなくなりました。

ターミナルの台座も補強しました。

ターミナル台座補強後

ターミナルはもちろん、台座を固定しているビスもクリーニングしました。

そして実は各部を固定するビスも、オリジナルは貴重です。1本1本クリーニングして防錆処理を施します。

クリーニング後のビス

ターミナルを固定するビスは導通に関わるので、代替品で交換します。

ターミナル固定ビスは交換しました

各部品のクリーニング、補修が終わったら、きれいになった各部品を組み合わせていきます。高域側と低域側は、それぞれ磁気に振動板をセットし、音を出しながらセンターを調整します。

同軸ユニットのため、通常の2倍の手間と時間がかかりましたが、修理が完了しました。

今回はマルチセルラホーンの下にあるフェルトのダストカバーも、汚れや硬化が確認できましたので代替品で交換しました。

サビ、異物、汚れから解放された 604-8G からは、私たちもびっくりするほど元気のいい音が飛び出してきます。これがみなさんを魅了するALTECサウンドなのですね。

当社のオーバーホールを経て、音の粒立ちがよくなった、クリアになったというお声もいただきます。

オリジナルのパーツが致命的な傷を負う前に、オーバーホールすることをおすすめいたします。お問い合わせ はお気軽にお寄せください。

※ALTEC 604-8G 用のネットワークもオーバーホールをする必要があります。その理由とともに実例を公開していますので、ぜひ合わせて ALTEC 604-8G 用ネットワーク修理実例と価格 をご覧ください。


ALTEC 604-8G/8H 1本の修理概算価格

基本修理:磁気回路オーバーホール、動作調整 一式 48,000円

 高域側ダイヤフラム断線修理:基本修理に 12,300円 追加

※価格はパーツ作成費などの影響で予告なく変更する場合があります。
※ユニット個々の状態はさまざまですので正式なお見積りは現物確認後にご案内します。