TANNOY の同軸(デュアル・コンセントリック)ユニット HPD385 / HPD385A の修理例をご紹介します。
同軸ユニットでは、高域と低域がひとつの磁気(=マグネット)を共有しています。そのため、高域周波数と低域周波数が同じ軸上から放射される形となり、定位感に優れているという特徴があります。
お客さまからは、外観からエッジの劣化に気づかれたり、聴いている中でいつのまにか高域が出ていない、あるいはガサガサ鳴る…というようなご相談をいただきます。ボイスコイルに致命的な問題がなければ、このような不具合は修理可能です。
まずはお預かり時の写真から。
コーン紙の外周にあるドーナツ状のものがエッジです。
経年劣化でボロボロになり、穴が開いたり崩れてしまったりしています。
エッジが劣化しているとコーンが振幅するときにその動きが正常に支持されず、ボイスコイルがふらふらと動いてしまい、ガサガサという音がでてきたり、ビリつきを感じるようになります。これをセンターズレ、ボイスコイルタッチなどと表現します。
このような状態で鳴らし続けるとボイスコイルが擦れ、傷つき、最悪の場合は断線にもつながってしまいますので、早めにエッジの交換が必要です。
ユニットを裏返して磁気カバーを開けてみましょう。
高域側のダイヤフラムが出現します。
4本のビスを外すとダイヤフラムが外れます。ダイヤフラムの状態を見てみると…ボイスコイルの引出部が酸化して黒ずんでいるのが確認できます。このままではここから断線してしまう可能性があるため、再引出という作業を行い断線を予防します。
「高い方の音が出ていない」という場合、ユニット側に原因があるとするとまずこのあたりをチェックします。
高域側ダイヤフラムを取り外すと磁気が出現します。写真は、息を吹きかけただけで酸化物が吹き飛ぶほどの酸化重度の状態ですが、ご購入後初めてオーバーホールをするHPD385の場合、ほとんどこのような状態になっています。
磁気のギャップ(丸いすきま)に上記の高域側のボイスコイル(赤いコイル)が収まるので、このすきまの酸化物や異物を徹底的に除去しなければなりません。このすきまに小さな酸化物や異物が残っていると、ボイスコイルが振幅するときにそれらがギャップ内で踊ってしまい、ビリ付きの原因になります。
また、中心部のたくさんの穴は逆サイドの低域側につながっていますが、穴ひとつひとつの中にも赤錆がびっしりです。穴ひとつひとつ、丁寧に錆を除去します。
この磁気をひっくり返すと、逆サイドは低域側の磁気となります。これがひとつの磁気を高域と低域が共有している仕組みです。
こちらもギャップに低域のボイスコイルが入り振幅運動をしますので、ギャップ内を徹底的にクリーニングします。茶色に見えているのは赤錆で、手で触ると錆がザラザラと崩れてきます。
磁気全体、そしてギャップ内の錆、汚れの除去が終わり、防錆処理まで完了した状態です。異常音の原因となる酸化物や異物がなくなりました。この磁気1つで2つのユニット分の作業となるうえ、かなり酸化が進行していたため、通常のユニットより時間がかかる作業となりました。
さらに、エッジの外周にある金具も酸化していますので、これもきれいに研磨し防錆処理をします。この金具はユニット1本につき8本もあるのでこちらも非常に時間がかかる作業となりますが、お客さまに「きれいになったね!」と驚いていただけることをイメージしながら、1本1本丁寧に作業していきます。
金具からエッジの劣化物を除去し、研磨、防錆処理を施した状態です。これで1ユニット分です。
TANNOY HPD385 は各部がほとんどビスで固定されていますので、ビスや座金も酸化したり汚れたり、劣化したりしています。
ビスや座金は必要に応じて交換したり、クリーニング・抗酸化処理をします。HPD385の雰囲気を壊さないよう、組み上げたあとの外観にも配慮しつつきれいな状態で揃えます。
低域側のダンパーを固定する部分の金具部分もこのとおり、酸化しています。
ダンパーの金具も酸化物を除去し、防錆処理をしました。
エッジを貼り替えます。当社で修理に使用するエッジは、オーディオラボオガワ時代から使用しているエッジです。これはエッジの専門家と相談しながらオリジナルに準じたものを目指してオーディオラボオガワが起型、作成したものです。使用実績は15年以上あり、音質的にも多くのお客さまに評価をいただいています。レリックではこの型・仕様をそのまま引き継いでいます。
あとは組み上げていきます。高域側の磁気にダイヤフラムをセットし、音を出しながらボイスコイルがギャップ内で正常に振幅しているかを確認しつつ、ビスを締めていきます。低域側も同様に、エッジを貼り替えたコーン紙をセットし、センター出しをしながらダンパーのナットを締めていきます。 動作はもちろんのこと、見た目もきれいになるように細心の注意を払って作業します。
高域、低域ともに動作調整が終わったら、エージングに入ります。
動作確認をし、まずはミュージックソースを入れて24時間鳴らします。再度動作確認後、さらに24時間以上鳴らし、経時変化がないことを確認します。
ここまできたら、お客さまに修理完了のご連絡します。
お客さまには「修理が終わったHPD385の音を聴いて、買ったばかりのころを思い出した」「こんなにクリアな音だったとは…耳が濁った音に慣れてしまっていたと改めて気づいた」など、喜びのご感想をいただき、ようやく私たちもほっと一安心。
お客さまのもとでもどんどん鳴らしていただくことで、またお客さまのお耳に馴染む音になっていくと思います。レリック スピーカー修理工房では、これからも長くご愛用いただけるよう、手間を惜しまず、丁寧に修理させていただきます。
TANNOY HPD385 / HPD385A の修理、メンテナンスをお考えの方はどうぞお気軽に お問い合わせ ください。
TANNOY HPD385 / 385A 1本の修理概算価格
基本修理:エッジ貼り替え、磁気回路オーバーホール、高域側ボイスコイル再引出、動作調整一式 64,500円
パッキン金具抗酸化処理:基本修理に 5,000円 追加
※価格はパーツ作成費などの影響で予告なく変更する場合があります。
※ユニット個々の状態はさまざまですので正式なお見積りは現物確認後にご案内します。