LS3/5aは、イギリスの BBC が放送局用に開発したモニタースピーカーで、当社でもよくお預かりするモデルのひとつです。同モデルは今回ご紹介する Rogeres だけでなく Spendor、Harbeth、KEF など他のメーカーからも発売されていて、人気、評価ともに高いスピーカーです。
![Rogeres LS3/5a 当社修理完了品](https://relicfreq.com/wp-content/uploads/2022/11/rogers_ls35a_01.jpg)
今回は東京都のA様からお預かりしたスピーカーを実例とし、オーバーホールの工程をご紹介いたします。
ご相談内容は「40年前に購入後、実家に置いていたスピーカー。海外生活も含めた転勤生活が終わり、久しぶりにアンプにつないだが音が出ない。古いものだけどなおせますか?」というものでした。
当社は修理業者のため、ご依頼品は古いモデルがほとんどです。
思い出のスピーカーを甦らせるべく、さっそくみていきましょう!
外観と音出しチェック
![お預かり時外観。ツイータ金網やビスに酸化が見られる。](https://relicfreq.com/wp-content/uploads/2022/11/rogers_ls35a_02-1.jpg)
![酸化しているスピーカーターミナル](https://relicfreq.com/wp-content/uploads/2022/11/rogers_ls35a_03.jpg)
外観からはそれほど劣化は見受けられませんが、ツイーター表面や各部のビスには酸化、サビが確認できます。
スイープ音を入れて音出し確認を行うと、左右とも音は出ますが正常な音ではなく、特にウーハーはコーンが振幅していません。また、スピーカーターミナルが酸化しているため、ここで接触不良が発生し音が出ない原因となっていたかもしれません。
スピーカーを分解し、詳細を確認
このスピーカーは前面バッフルにツイーター、ウーハー、ネットワークが固定されていますので、スピーカー本体から前面バッフルを外します。
![前面バッフルに固定されているウーハー、ネットワーク。ネットワークの市tにツイーターがある。それぞれ酸化。](https://relicfreq.com/wp-content/uploads/2022/11/rogers_ls35a_04.jpg)
左側がウーハー、右側がネットワークです。ネットワークの下にツイーターがあります。
ウーハーの底面、ビス、コイルの固定金具などにかなりの酸化が見られます。
さらにユニットやネットワークを取り外し、それぞれの不具合箇所を調べていきます。
ツイーターの修理・オーバーホール
ツイーター表面を見ると、金網の目地が錆で埋まってしまっています。
フランジにもそれなりに経年の汚れがあります。
![ツイーター前面。金網に酸化物が詰まっている](https://relicfreq.com/wp-content/uploads/2022/11/rogers_ls35a_05-1.jpg)
ツイーターを裏返すと、ウーハー同様に金属部分がかなり酸化しています。
![](https://relicfreq.com/wp-content/uploads/2022/11/rogers_ls35a_06-1.jpg)
ダイヤフラムを外して磁気を露出しました。
フランジとダイヤフラムとの接面には赤錆が発生していて、ギャップ内にも酸化物が確認できます。
![ツイーター磁気回路。表面に赤錆、ギャップ内には酸化物がある。](https://relicfreq.com/wp-content/uploads/2022/11/rogers_ls35a_07.jpg)
ボイスコイルには問題ありませんので、きれいにクリーニングすることでツイーターは復活します。
![ツイーターボイスコイルは異常なし](https://relicfreq.com/wp-content/uploads/2022/11/rogers_ls35a_08.jpg)
交換部品もない貴重なオリジナルのダイヤフラムを丁寧に扱いながらオーバーホールを進めます。
また今後、ボイスコイルが傷つかないようにギャップの中の細部まで丁寧に作業し、組み上げ、動作調整を行いました(磁気回路オーバーホール後の写真は撮影し忘れました…)。金網ネット、フランジも再塗装し「顔」もきれいになりました。
![オーバーホール後ツイータ表面。金網、フランジは再塗装ずみ](https://relicfreq.com/wp-content/uploads/2022/11/rogers_ls35a_09-1.jpg)
スピーカーに入れてしまえば見えなくなるユニット裏面もこのとおり、しっかりクリーニングしました。
![オーバーホール後ツイーター裏面。酸化物除去、防錆処理ずみ](https://relicfreq.com/wp-content/uploads/2022/11/rogers_ls35a_10.jpg)
ウーハー修理・オーバーホール
ウーハーを取り出しました。
端子、ハトメを含め、金属部分は酸化重度です。
![](https://relicfreq.com/wp-content/uploads/2022/11/rogers_ls35a_11-1.jpg)
コーンが振幅しない(=抜けない)ので、ダンパーを剥離しボイスコイルを確認すると、ボイスコイルがギャップにがっちりと挟まっています。経年劣化による磁気ずれが原因です。
![ウーハーのボイスコイルはギャップに挟まっている](https://relicfreq.com/wp-content/uploads/2022/11/rogers_ls35a_12.jpg)
磁気ずれが起きている場合は、偏りができているギャップを均一にするため、脱磁をして磁気回路を分解する必要があります。
今回も脱磁によりマグネットが露になりました。
![酸化重度のウーハーのマグネット](https://relicfreq.com/wp-content/uploads/2022/11/rogers_ls35a_13.jpg)
こちらはウーハーのフレーム側です。
ラグの酸化は導通不良の原因となります。いつもはコーンに隠れて見えにくい部分ですが、コーンを抜き取ることで細かい部分の酸化、劣化がはっきり確認できますね。
![ウーハーの端子も酸化](https://relicfreq.com/wp-content/uploads/2022/11/rogers_ls35a_15.jpg)
コーンを抜き取ることができました。ボイスコイルは酸化物で汚れてはいますが、無事でした。
磁気ずれ、固着の場合はボイスコイルが無事かどうかが確認できるまで、ユニット自体が修理可能かどうかが判断できません。
今回は無事が判明し一安心です。
![酸化物で汚れているウーハーのボイスコイルはクリーニングすることで再利用可能](https://relicfreq.com/wp-content/uploads/2022/11/rogers_ls35a_16.jpg)
ウーハーが脱磁により「マグネット」と「フレーム+トッププレート」にわかれています。それぞれ錆を落とし、防錆処理を施します。ラグ、ハトメ、もちろんフレームもクリーニングしました。
![マグネットとフレームにわかれたウーハー](https://relicfreq.com/wp-content/uploads/2022/11/rogers_ls35a_17.jpg)
オーバーホールが終わると、ウーハーを組み立て直し、着磁をします。
組み立て直すときは、ボイスコイルが収まるギャップの幅が均一になるようにしなければなりません。
また着磁後は、ギャップ内で磁束密度を測定し、磁束密度がしっかり上昇し、ペアで揃っていることを確認します。
![オーバーホール、磁気調整後のウーハー](https://relicfreq.com/wp-content/uploads/2022/11/rogers_ls35a_18.jpg)
クリーニングしたコーンを磁気回路にセットし、エッジとダンパーを接着しながら動作の調整を行います。
外観だけでなく、内部までしっかりメンテナンスを行い、ようやくウーハーの修理が終わりました。
![修理完了後のウーハー](https://relicfreq.com/wp-content/uploads/2022/11/rogers_ls35a_19.jpg)
ネットワーク修理・オーバーホール
ネットワークは低域、高域共に音圧差が確認できました。
不良コンデンサー、抵抗の交換と低域側のコイルの調整を行います。
コイルは固定金具が腐食しています。幸い内部鉄芯は問題ないため、防錆、調整し再利用します。
素子はすべて外し、一つ一つチェックし不良品を割り出します。コンデンサーは低域側で2か所、抵抗は低域、高域共すべて交換します。近頃の修理ご依頼品は抵抗が劣化している個体が非常に多く、交換が多いです。経年劣化の素子への影響を強く感じます。
![オーバーホール前のネットワーク。コイル固定具の腐食重度](https://relicfreq.com/wp-content/uploads/2022/11/rogers_ls35a_20.jpg)
コイルを外し、錆びた金具を丁寧に除錆し防錆処理を行います。
左右でバラツキのあるコイルを分解し、調整を行っています。微妙なセットの仕方で数値が変化するため慎重に作業します。
![コイル固定部のクリーニング、防錆処理後](https://relicfreq.com/wp-content/uploads/2022/11/rogers_ls35a_21.jpg)
ネットワークのオーバーホールが完了品しました。
腐食部分を全て除錆し、不良コンデンサーと抵抗を交換しています。
![オーバーホール後のネットワーク](https://relicfreq.com/wp-content/uploads/2022/11/rogers_ls35a_22.jpg)
ターミナルオーバーホール
腐食の進んだターミナルも除錆しクリーニングします。
今回はお客様のご希望によりオリジナルをクリーニングして再利用することになりましたが、汎用ターミナルへの交換も可能です。
![酸化しているスピーカーターミナル](https://relicfreq.com/wp-content/uploads/2022/11/rogers_ls35a_23.jpg)
ターミナルは劣化による不良が起こりやすい箇所です。
腐食や固定不良により接点不良となり、「音が出ない」や「ノイズが乗る」などの原因になることがしばしばあります。クリーニングで改善する可能性もあり、聴感上の不調を感じたらまずチェックをしていただきたい部分です。
動作チェックからエージング、スピーカー組み込み
修理が終わったツイーター、ウーハー、ネットワークをそれぞれ単体でチェック後、エージングに入ります。
エージングの目的は経時変化がないことを確認することです。
それぞれエージングが終わったら、再度機器にて動作チェック後、クリーニング後のエンクロージャーに組み込んでいきます。
修理完了
オーバーホールがすべて完了しました。
![すべての修理工程が完了したRogeres LS3/5a](https://relicfreq.com/wp-content/uploads/2022/11/rogers_ls35a_24.jpg)
エンクロージャーに組み込んだ後は、さらに音楽を鳴らしてチェックを行い、ようやくお客様へ修理完了のご連絡ができる段階となります。
時代を経ても評価されるスピーカーというだけでなく、お客様がずっと手放さずに保管されていたスピーカーの再生に携わることができ、とてもうれしく思います。
年式の古いスピーカーでも、適切なメンテナンスをすることで引き続き快適にお使いいただける場合が多々ござます。致命的な問題が発生する前に、メンテナンスのご相談をいただければと思います。
興味をお持ちいただきましたら、お気軽にお問い合わせください。
Rogers LS3/5a 修理概算価格:150,000~200,000(税別)程度
※輸送費用は含みません。
※各部劣化、酸化の状態により修理費用は変動します。そのため当社では、正式な修理お見積もりは現物確認後とさせていただいております。