東京都のお客さまからご依頼いただいた JBL 4311A の修理をご紹介します。
4311Aは JBL らしい音と外観が魅力の1970年代発売の3Wayスピーカー。
ユニット構成はツイーターがLE25、スコーカーがLE5-2、ウーハーが2213Hです。
この度はネットワークのオーバーホール、ターミナルの交換もお任せいただき、スピーカー全体のメンテナンスをさせていただきました。
※当修理は、私たちの前身「オーディオラボオガワ」にご予約をいただいていたものです。2021年5月現在、ご予約過多によりスピーカーエンクロージャー(ボックス)ごとの新規受付、新規ご予約は休止中です。
JBL 4311Aに限らず、古いスピーカーは外観からは想像できないほど、内部に酸化、腐食、劣化などがあり、これらによってビリ付き、音圧差などが発生していることがほとんどです。往年のすばらしい音を甦らせるために、レリック スピーカー修理工房では、ひとつひとつのパーツを丁寧にオーバーホールしていきます。
ではさっそく、お預かりした時の状態から見ていきましょう。 1970年代の発売から一度もメンテナンスをしていないとするとすでに約50年近く音楽を鳴らし続けてきたペアということになります。幸い音に大きな異常はなく、問題なく修理をすることができますが、やはりあちこちに経年の劣化が見られます。
エンクロージャーからユニットを取り外していくと酸化がすぐに確認できます。これはツイーターLE25ですが、磁気の外側がこのように酸化しているユニットは、内部も同様に酸化していることがほとんどですので、オーバーホールが必要です。
エンクロージャーからすべてのユニット、ネットワークを取り出しました。
さっそくツイーター LE25から見ていきましょう。
表面のウレタンが劣化して崩れ、片側(写真右側)はセンターキャップとコーン紙がつぶれています。
ユニット背面やラグはかなり酸化しています。左右で酸化の状態が異なりますが、これもよくある傾向です。スピーカーのペアを同じ部屋に置いていても、一方を窓側に設置していたり、水槽の近くに設置していたり…という設置環境の差で、酸化の程度が異なるようです。
コーン紙を剥離すると、狭いギャップにも酸化物が確認できました。
まずは当社のオーバーホールの基本として、磁気、ギャップ内をきれいにクリーニングします。酸化物を除去し、防錆処理をほどこしました。これでボイスコイルの動きを妨げるものはなくなりました。
酸化物に覆われていた背面やラグもきれいになりました。
またこのモデルはボイスコイルの引出部が酸化している個体がほとんどのため、原則すべてリコーンします。また、この個体に見られるようなコーン紙やセンターキャップのシワ・つぶれは鳴きの原因にもなりますので、リコーンが最適です。
リコーンには、オリジナルに準じた品質を目指し、当社の前身オーディオラボオガワで作成したパーツを使用します。このパーツはすでにたくさんの使用実績があり、多くのお客さまに喜んでいただいております(JBLからのパーツ供給はすでに完了しています)。
小さなパーツを丁寧に組み立て、コーン紙全体の貼り替えと動作調整が完了しました。 表面のドーナツ型のウレタンはJBL純正品です。
次はスコーカー LE5-2。 こちらも酸化が進行しています。このモデルはフレームからコーン紙を剥離するのが大変です。リコーンパーツもないため、コーン紙を傷つけないよう慎重に剥離し、すべて分解しました。
ひどかった磁気のサビを除去し、防錆処理も施しました。ターミナルもクリーニング、そしてフレームの研磨も行い、とてもきれいになりました。
貴重なコーン紙一式を戻し、音の調整をして修理完了です。
そしてウーハー 2213H。やはり磁気が酸化しています。黄色くなっているのが酸化物で、ギャップ内もサビがあります。
これはコーン紙背面。表面のシミだけでなく、背面エッジ部分にはカビが発生しています。
まずは磁気回路をきれいにし、防錆処理を。
2213Hのコーン紙も JBL からの供給はかなり以前に完了していますが、幸い当社に新品在庫がありましたので純正の新品パーツでリコーンさせていただきました。
フレームの研磨も行い、まさに新品同様のウーハーとなりました。
次はネットワークです。
ネットワークをエンクロージャーから取り外すためにはスピーカー正面バッフルのエンブレムプレートを外さなければなりません。プレートはバッフルに強固に接着してあるためバッフル及びプレートを傷つけないよう慎重に外します。
3Wayのネットワークにも関わらず非常にコンパクトで回路もシンプル。コンデンサ2基とアッテネーター2基の構成です。
内部素子をチェックします。コンデンサーは異常なし。アッテネーターは劣化による動作時のノイズがみられました。 今回は異常のないコンデンサーは残し、アッテネーターのみ交換します。
オーバーホール完了後のネットワークです。アッテネーターは新品へ交換し動作時のノイズは皆無です。また劣化半田の打ち換えとユニット接続のファストン端子交換をしています。
ユニット、ネットワークともに、修理が終わったらそれぞれ単体でチェック後、最低でも2~3日のエージングに入り、経時変化がないことを確認します。その後、ようやくエンクロージャーに組み込みます。
なお、スピーカー背面のメインターミナルは、使い勝手も良く、高品質のWBTのものに交換させていただきました。
すべてのユニットとネットワークの組み込みが完了したら、さまざまなミュージックソースを使い、さらに1週間~10日程度しっかり鳴らし込み、修理が完了となります。
古いスピーカーでも丁寧にオーバーホール・修理をさせていただくことでこれからも快適にお聴きいただけるようになります。お客さまがこの JBL 4311A とともに、またすばらしい思い出を重ねていっていただければ、嬉しく思います。
JBL 4311A 修理概算価格:400,000円~500,000円(税別)
※輸送費用は含みません。
※各部劣化、酸化の状態により修理費用は変動します。そのため当社では、正式な修理お見積もりは現物確認後とさせていただいております。
当修理は、私たちの前身「オーディオラボオガワ」にご予約をいただいていたものです。2021年5月現在、ご予約過多によりスピーカーエンクロージャー(ボックス)ごとの新規受付、新規ご予約は休止中です。ユニット単体、ネットワーク単体であれば、随時お預かり可能です。詳しくは お問い合わせ ください。