存在感抜群、JBL を代表する名ドライバ―ユニット 375です。
ステレオサウンド誌のデータによると、質量は11.9Kg、ボイスコイルの径も4インチ(約10cm)もある大型ドライバーです。
ウーハーのエッジの劣化やコーン紙の破れなどと異なり、外観から経年劣化を感じることはほとんどないと思いますが、音のビリ付き、歪みを感じてオーバーホールをご依頼くださる方が多いのがドライバ―の特徴です。使用帯域から考えても、音楽を聴きながら「あれ?」と思う方が多いようです。
今回は福岡県のY様、他のご承諾を得てJBL 375の実際のオーバーホールの工程をご紹介いたします。なお、一般的なドライバ―(JBL 2440、LE85、ALTEC 802-8G/16Gなど)も同様の修理となります。
ではさっそく、音の確認をしたら、カバーのビスを外して開けてみましょう。
カバーの内側に貼ってあるウレタンが崩れ、ダイヤフラムの上に散らばり、また各部を固定しているビス、内部ケーブルの先端もさびています。
一方、ロールエッジのダイヤフラム自体は傷や打痕もなくきれいです。純正パーツは貴重ですので、この段階でほっと安心します。
ダイヤフラムを傷つけないよう慎重に外し、磁気を確認します。
黒い部分が3重にスリットが入ったフェイズプラグで、その外側の細い隙間がボイスコイルが入るギャップです。写真では見えにくいですが、ギャップ内に酸化物の欠片が確認できます。
この酸化物は、小さなものでのビリ付きの原因になったり、ボイスコイルを傷つける原因になります。酸化物とボイスコイルが擦れ、ボイスコイルに大きな傷がつくと最悪断線してしまうこともあります。きれいにオーバーホールしていきます。
ウレタン劣化物、そしてトッププレート・ギャップ内の酸化物を丁寧に除去し、防錆処理を施しました。
カバー内側のウレタン、ケーブル、ターミナル固定ビスも交換しました。もちろんターミナルの酸化、汚れもクリーニング。電気の流れを妨げる不要なものがなくなり、ボイスコイルがスムーズに振幅できるようになりました。
ここまできたら、点検済みのダイヤフラムを磁気にセットし、音出ししながらセンターを出します。この時点でダイヤフラム固定ビス、端子ラグ固定ビスも交換します。
シビアなダイヤフラムになると、ビスを締める順番でも音が変化しますし、センターが出ていてもダイヤフラムのわずかなセット位置の差で音圧が変化します。
集中して調整し、ペアでバランスが整っているかをチェックします。
※古い個体、古いダイヤフラムでは個体差が大きいため、音圧や音の出方がペアでぴったり揃うことはほどんどありませんが、それぞれのユニットの「使用帯域において、人間の耳で音楽を聴く」ことを考慮し、ペアで極力バランスが整うよう努力いたします。
調整がしっかり決まると、それはそれは立派な「375」の音になります。カバーをして48時間以上ミュージックソースを鳴らし、経時変化がないことを確認したら修理完了となります。
JBL、ALTECなど、当社でお預かりするほとんどのスピーカーユニットでは、純正のダイヤフラムやコーン紙の入手は困難です。そのため、今のオリジナルパーツをいかによい状態で保持するかという視点がご愛用のスピーカーを長持ちさせるポイントだと思います。
純正パーツに致命的な問題が起きる前に、オーバーホールをお勧めいたします。興味をお持ちいただきましたら、お気軽に お問い合わせ ください。
JBL 375 他一般的なドライバ― 1本の修理概算価格
基本修理:磁気回路オーバーホール、内部ウレタン交換、動作調整 一式 21,000円
内部ケーブル作成:基本修理に 1,000円 追加
※価格はパーツ作成費などの影響で予告なく変更する場合があります。
※ユニット個々の状態はさまざまですので正式なお見積りは現物確認後にご案内します。