2022年5月にご依頼いただいた JBL 3110A の修理をご紹介します。
3110A は JBL Professional シリーズのために作られたネットワークで、4671 や 4672A に内蔵されていたようです。
クロスオーバー周波数は800Hz。
上部に LF と HF 接続用のターミナル、下部に INPUT 用ターミナルがあり、中央に HF GAIN 3段階の切り替えスイッチがあります。
さらに同タイプのネットワーク JBL LX13 や 3110 と異なるのは HF BOOST 用のスイッチを備えていることです。このスイッチで5KHz以上の高域を3段階で調整することが可能になっています。
このような JBL 箱型のネットワークで多いのがターミナルのゆるみ、脱落です。
構造上弱い部分なのですが、長年の使用によりターミナルの穴向きがあべこべになっているもの、ガタガタになり接点不良を起こしているもの、ターミナルが取れてしまい配線不能になっているものなど様々な症状があります。
それでは、今回は愛媛県の U様のご承諾をいただき、実際のオーバーホールの工程をご紹介いたします。
大変外観がきれいなネットワークです。ケースの錆や塗装の劣化も見られません。
早速、動作チェックを行ったところ、高域側で左右音圧差が発生しています。スイッチを捻るとノイズが乗ります。やはり約20年の時を経て素子は確実に劣化を始めているようです。気になるターミナルは緩んでいないようで、接点不良もありません。
それでは、音圧差の原因を探るべくリベットを外し、ネットワーク内部を確認していきます。
スイッチは、外部の劣化はありますが、幸い内部接点は比較的きれいです。接点のクリーニングで対応します。
内部素子をチェックすると、コンデンサーの容量と抵抗の値が大きく異なっています。
また、前モデルと比べ各部品のグレードが上がっているように見受けられます。
コイルは使われている線が明らかに太くなっており、結果、取り回しに自由が利かず作業は大変になります。
容量差のあるコンデンサーをすべて交換しました。
年代によって箱の中の充填物に違いがありますが、今回コンデンサー類を取り外す際、充填物の除去に大変苦労しました。JBL の充填物は熱で容易に緩むものが多いのですが、今回はまったく緩まず、根気強く温め、千切るようにようやく取り外しました。
作業中はニカワのような動物性の匂いがしました。
抵抗も交換し、スイッチもクリーニング完了しました。
チェックしてノイズがのらないことを確認します。
ターミナル部は一度すべて外し、ターミナルおよび接点ビスをクリーニングします。冒頭に記載いたしましたが、ターミナル部は不良の多い箇所です。写真の通りビスで固定しているだけの形ですので、緩んでしまうとラグとの接触が不安定になり、導通不良の原因となります。
また、内部からビスをうってあるので、締め直そうにも蓋を開けない限り触ることは不可能です。
今後、ターミナル部分で不良が起きないように、ビスを一度すべて外し、ターミナルの穴位置を合わせ、1つ1つしっかりテンションをかけ締め直しました。
ペア揃えて、すべての修理が完了しました。
機器にてチェック後、実音チェック、エージングに入ります。
エージング後、再度機器にて動作チェックを行い、経時による問題再現がないことを確認して修理完了です。
ネットワークはユニットへの電気信号の入力を司ります。ネットワークが正常に信号を処理できなければ本来のユニットの力を発揮させることはできません。特に軽視されがちですが、ターミナル部の不良は出力不良、音の途切れやノイズの発生などの原因として直接影響を与える場合が多いです。
ネットワーク単体でのチェック、オーバーホールは勿論、ユニットをお預かりする際に合わせてネットワークも確認、オーバーホールをご検討頂くことをお勧めいたします。 興味をお持ちいただきましたら、お問い合わせください。
JBL 3110Aネットワーク 1本の修理概算価格
基本修理:不良素子交換、半田打ち直し、劣化端子交換、動作調整 一式 18,000円(税込 19,800円)
※交換部品代は別途申し受けます。
ネットワークは左右のペア調整が必須のため、必ずペアでのお預かりとなります
そのため、修理概算価格は 18,000円 × 2本 = 36,000円 (税込 39,600円)程度プラス交換部品代とお考えください。
※価格はパーツ作成費などの影響で予告なく変更する場合があります。
※個々の状態はさまざまですので正式なお見積りは現物確認後にご案内します。